自然循環の力

冬が終わりに近づいてくると、冬に水をはった田んぼでは新しいいのちが準備に入っています。オタマジャクシをはじめ、イトミミズや蜘蛛などの小さな小虫、その他、水の中には何らかの卵がたくさん泳いでいます。

秋の収穫が終わっても、水のめぐりを止めなければ生態系の循環は冬の間も行われます。生物多様性は、自然循環と共に行われますから自然循環の邪魔を如何に行わないかで多様性はより豊かになるとも言えます。

農薬も肥料も蒔かずに稲を育てている田んぼは、年々、そこで暮らしていく仲間たちの姿も変化してきます。4年目くらいからはよく見かける草草、5年目くらいには定着しているカニワナや沢蟹たち、上手に周りの生き物たちと共生をはじめています。

生物多様性をみていたら、一つ一つの生き物たちがそれぞれに関係を結び近くて生きていることに驚きます。あの生き物がいるということは、近くにこの生き物がいるはずと一つ一つを結んでいたらまるでどこかから集団移動してきたのではないかと思えるほどに無数の生き物たちのムラが出来ています。

土の中も一握りの土に地球の人口以上の微生物が棲んでいて、場所場所によってはその微生物の種類も分布も異なりますから数年でここまで変化してしまうのをみると如何に自然の循環の力が偉大かが分かります。

人間がその土地を改良するために様々な薬や肥料を散布してもここまでの変化は創りだすことができません。自然の持つ循環力は、あるがままそのままにしておくだけで発揮されています。むしろ邪魔をしないでいることがもっとも自然の循環力を引き出しているとも言えます。

この邪魔をしないというのは、余計なものを足したり耕したり、持ち込まなさい持ち出さないということですが言い換えれば自然のままにしておくということです。しかし何もしないで自然のままなら作物が育ちませんから、人の手を入れることも自然の一部として自然にしてしまうのです。それは自分の作物を育てるのに、周りを排除するのではなく「一緒に」育てていこうとするのに似ています。

自分だけがよければいいという考え方はとても利己的で自然ではありません。循環というのは利他的であれば、相手も自分も、また皆が善いのがいいと考える発想です。これは「三方よし」とも言いますが、みんなが倖せになるためにどうすればいいかを考え最善を盡していくのです。

自然循環はいつも全体を最適になる様に動いていますから、全体が最適になっていると思うことがまず循環の力を邪魔しなくなるための第一歩になると思います。そのままでいい、このままがいいと丸ごと認めてからその上で全体が最適化するのを見守っていくのが一つの方法論かもしれません。

今年の自然農園の田んぼも、いよいよ苗を植えるまでの準備と手入れの時機に入りました。小さな生き物たちが土を柔らかくしてくれて、冬の草草の根が土の中にたくさんの空洞をつくってくれています。ここに苗が移植されていきますが、循環のタイミングをみてはお引越しです。

また今年の循環を観察し、自然がどう変化しているのかを味わってみたいと思います。