ニッポン文化の甦生

昔、ACのCMで「ニッポン人には、日本が足りない」という動画がありました。これは元銀山温泉老舗旅館のジニー女将が「日本人は日本人のいいところを忘れている」という内容で動画で日本人の素敵なところを自らが表現されています。映像では素朴で素敵な日本人の生き方を愛し、自らその懐かしい姿を守るために老舗旅館を経営している姿が映し出されています。古きよき日本を愛したジニーさんはその後、旅館が洋風のデザインに走り親族との経営方針が合わず帰国したとありましたが今はどうしているのでしょうか。この外国から来たジニーさんは、ひょっとしたらニッポン人よりもニッポン人だったのかもしれません。

人間は外国に限らずどんな組織であっても、自分の居る場所や所属しているものが当たり前になってしまうと当たり前に気づかなくなってしまうものです。本来、外から見れば大変素晴らしいことをやっていると思っても自分自身がその価値に気づかなければそれを忘れてしまいます。

もしも忘れてもそれが当たり前に維持できているのならいいのですが、本当に大切なことまで忘れてその当たり前が失われてしまえばその素晴らしいこともまた消失してしまうのです。素晴らしいものを失ってほしくない、懐かしいものをいつまでも残していきたいという心は、当たり前ではないことの再発見であり、温故知新であり、文化の継承でもあり、伝統の伝承でもあり、民族にとって何よりも優先する大切なものです。

私は、この当たり前と思っている文化こそ今の時代に見直す必要を感じます。なぜなら西洋から入ってきたり、世界から入ってくる文化を日本に和訳したり和に転換するのではなくそのままに挿げ替えて他の文化を自分の文化だと勘違いしていればそのうち日本人であることを忘れていくからです。取ってつけたような文化を自分の当たり前にしていたらそのうち自分たちがどんな民族だったかも忘れてしまうでしょう。

古来から和魂漢才や和魂洋才といって、和魂を持つ日本人であるのが大前提でそれをどのように新しく海外からの知識を自分たちが和で調理して日本のものにするかがその時代を生きる民族の使命でした。今では幼少期から西洋の知識や文化が自分たちの文化だと刷り込まれ、本来の日本人であったことを失わせているように感じます。

民族というのは風土が育てるもので、風土の中で醸成され出来上がるものです。風土に根を張り、風土の養分を吸い上げていくからその民族はその風土のなかでもっとも活き活きといのちが伸び、その独特の文化が世界の中の多様性を発展させていくものです。それは単に流行の新しいではなく、普遍的な新しさを持ち続けていくということです。

和魂を持つものが日本民族を継承し、その日本人が和魂のままに世界の文化を吸収し普遍性を発揮していくから世界の中の日本として人類の文化を繁栄発展させていくことができるのです。

しかし今の時代のように日本人がニッポン人を忘れ、日本人の精神や心や暮らしや生き方を消失してしまえば和魂は弱体化していきます。昔の日本人は正直で素朴、目がイキイキしてみんな愉快に笑っていたといいます。和魂が満ち足り、日本文化が伝承されていたときは根を張った野性の生き物たちのように元気に活動できていたのではないかと思います。その根拠は、自然農と同じくその命はもっともその風土で活き活きするからです。育て方を西洋式に換えた野菜には、その活き活きした命を感じられません。

日本に適った育て方、日本に合った育ち方が、自然環境や風土にあるのを無視して西洋の文化の育て方や育ち方をすればそのいのちは貧弱になるのです。野性化というのは、そのものの文化を丸ごと吸収して一体化するということです。

改めて日本人がもう一度、ニッポンの価値を取り戻すことの重要性をひしひしと感じます。もうここまで来たらよそ見をしている暇などありません。引き続き子どもたちの未来に向けて、優先順位を研ぎ澄まし、風土に根を掘り下げてニッポン文化の甦生、初心伝承をカタチにして子どもたちの現場に届けていきたいと思います。