恩送りの生き方~いのちを愛おしむ~

先日、福岡に桧山タミさんという92歳になる料理家がいることを知りました。昭和25年、タミさんは26歳で結婚。しかし、そのわずか6年後に夫を病気で亡くし2人の子どもを育てるため、料理教室で生計を立ててきたそうです。桧山さんは食べる人のことを考える「思いやり」の心をとても大切にしていて電子レンジなどは使用したこともなく、お米は炊飯器などは使用せず、最も善いのは「炭による火力」だということを仰っています。

また料理を作る際に何より大切なことは食べる相手のことを思いやることで、季節の野菜などを食材を使うことも推奨しておられます。そして著書にある「いのち愛おしむ 人生キッチン」(文春e-book)にはこうあります。

「竈で煮炊きした大正の生家でも、子育てと仕事に奮闘した昭和の町屋でも、ひとり暮らしの平成のこのマンションでも、台所がいつも生活の中心にあります」

暮らしの中心は時代が変わっても台所であるという信念で昨年行われた私塾の公開講演のテーマでも「がんばらない台所」とし、その目次を観ると(①自然とのつながりについて②学校では教えない旬の野菜③自然に反しない調味料④道具のちから⑤料理の基本、おいしいご飯を炊けること⑥便利が不便をうむ⑦子どもの頃、何を食べたかで決まる⑧みなさんに伝えておきたいこと)となっておられました。

また料理することは「毎日の一食一食が家族と自分の命をつなぐ営みだから」といい、台所をいのちの拠所にしてご自身の生き方を今でも磨いておられるように思いました。生き方から出てくるその言葉は優しく、心に響いてくるものがあります。

「時代が変わっていってる。それには反対できない。自分で(実践して)いけるものを見つけないといけない。手は抜いてもいいけど、心っていうのは思いやり。その人に対する思いやりを抜いたらだめ。いまごろのお母さんは忙しいから、なかなかできないけど。忙しいってことは、“心を亡ぼす”という字。言葉じゃないけど、思いやり。」

「この人は疲れているか、疲れていないか。疲れているなら、お茶でもコーヒーでも、例えば紅茶を甘めにしてあげる。その程度。“疲れとう”と言ったら、“背中さすってあげよう”と言うと、それだけで、ほっとする。だからお金とか、物じゃない。気持ち。」

ここからもわかるのは料理は形式などではなく真心や思いやりを優先、まさに生き方を語られます。

私も日々の暮らしの実践や聴福庵での炭を使った料理を磨いていますが、まさにこの生き方と実践こそ私の目指す竈主としての生き方ではないかと感動したのです。今後の聴福庵の「澄料理」の根本理念の参考にさせていただきたいと思っています。

最後に桧山タミさんの著書の「あとがきにかえて」より、

「女性はもともと強く、男性はもともとやさしいのです。だから、強さを学ぶために男性は生まれたのです。女性は強いからこそ、やさしさを学ぶために生まれてきたのです。やさしくなるというのは、ただ他人任せに甘えることではありません。人にやさしくするためには自分の心身の強さを持って、そばにいる大事な人たちを温かく応援できるということ。目に見えない思いを日々「料理」にこめることは、命を愛おしむこと。あなたのキッチンが、楽しく豊かで、いつもおいしい匂いのする、家中で一番幸せな場所になりますように。」

やさしさと恩はずっと子々孫々まで巡っていきます。真心を籠める生き方を私も貫いていきたいと思います。