面白い経営

ホンダを創業した人物の一人に藤沢武夫氏がいます。創業者の本田宗一郎氏を語るとき、この藤沢武夫氏の存在は決して欠かすことができません。共に同じ夢に向かって信頼し合って経営をする。まさに車輪の両輪のように共に一つの道を歩んでこられた関係には、学ぶところが多くあります。

本田宗一郎氏は技術の人で、本物のものづくりにこだわる発明家でもありました。本物にこだわるために、全集中力をものづくりに注力しますからそれ以外のことができなくなってきます。しかし社長という立場は、一般的には様々な仕事の判断や資金的なことを部下や外部に求められ要求されていきますからそれを一人でやろうとするのは無理なことで、偏っている人であればあるほど周りの支えがなければ成り立ちません。一人の全能力を持つ人が経営するなら本来の天才もその長所や得意が失われ平均的な経営で終わってしまうようにも思います。

藤沢武夫氏は、お互いに尊敬し合い共に信頼して自分の役割をやり切るようなパートナーを探していました。その相手が本田宗一郎氏だったのです。二人は力を合わせて信頼し、お互いのやりたいことをやることに専念するために共にお互いの方針には口を出さずに信じたことをそれぞれにやり切っていきました。この二人の関係は、成長に主軸を置いて共に成長し合う関係を維持してその中心にホンダという会社があったように思います。

藤沢武夫氏にこんな言葉が残っています。

「私は戦前から、誰かをとっつかまえて、一緒に組んで自分の思い通りの人生をやってみたいと思っていました。その場合には、私はお金をつくってものを売る。そしてその金は相手の希望しないことには一切使わない。なぜなら、その人を面白くさせなければ仕事はできないに決まっているからです。」

「人間の能力というものは、いろいろあって誰しもオールマイティというわけでなく、それぞれ得意とするものを持っている。だから、社長は社長で、その得意とするものに全力をあげてもらって、あとのことは心配をかけないように、みんなで分担するのです。」

ここに仕事観があるのがわかります。仕事というものを自己を磨き成長するものとしており、経営は藤沢武夫氏にとって夢の実現、自己実現とイコールであったように思うのです。本田宗一郎の夢に賛同し人生を懸けると決めた時にこういいます。

「金を持っている人は、その金をもっと増やしたいとか、権力を得たいとか、そういう欲があるでしょうが、私は何しろ仕事がしたかった。自分の持っている才能の限界を知りたいというのが私の夢だった。」

お金を増やしたり権力を得ることが目的ではなく、本来の仕事をしたいと言いました。それは自分の持っている天才を引き出しそれを存分に発揮したいと願ったのです。この人物の経営の定義は、単にただ会社を運営するのが目的ではなく共に夢を実現するために一緒に丸ごと信じ切って目的をやり遂げることとしていたように思います。ホンダという会社においてこのように客観的に語ります。

「他社がどんどん儲けているときでも、ホンダは便乗しないから儲かりません。その代わり、本物をあくまでも追求するということで、よその経営者と違って、本田宗一郎は、自分の納得できるものだけを求めたのです。」

「本田宗一郎、藤沢武夫の特長とは何かといえば、ひとことで言って、エキスパートであるということでしょう。面倒見のいい管理者タイプでは決してありません。本能と直感で動きます。こういう人間は、世間一般の組織図で固められた集団の中では生きられないのです。せいぜい出来の悪い管理者になって、才能をすり減らしてしまうのが落ちでしょう。しかし、エキスパートを活かせない限り、ホンダがユニークな企業として発展することはできません。」

「本田宗一郎は特別な人間です。だから、彼のような人物を育て上げようとしても無理です。それならば、何人かの人間が集まれば本田宗一郎以上になる、という仕組みをつくりあげなければならないということです。そうしなければ、この企業は人様に迷惑をかけることになる。」

「ホンダはものをつくる会社なんです。ですから、どんなに儲かる話があっても、その話には乗らない。儲けるならみんなの働きで儲けるんだということを、ホンダの金科玉条にした。」

ホンダという法人の本質を深く理解し、そのホンダに世の中で本当の仕事をさせようとした。

そしてそれを実現することを何よりも自分の仕事の信条とした。この「信頼関係を築く」ことを「夢の仕事」としたのでしょう。会社とは、結局は社員同士の信頼によってその目的が成就されていくように思います。それを実現するために、まずは信じ切るということをお互いに覚悟したというところに仕事の面白さと豊かさがあります。藤沢武夫氏の経営は面白い経営そのものです。

最後に、これは今の私たちにも大切な格言として戒めておきたいと思います。

「順序を変えなければ企業は失敗する。それは、「お客様の喜び」を第一番目にしなければならない筈だ。その喜びがあって初めて「売る喜び」があるはずである。その2つの喜びの報酬として「作る喜び」になるのが順序である。」

如何に喜んでもらうか、それは家が喜ぶか、お客様が喜ぶか、商品が喜ぶかと、喜びを主体として取り組んでいくことです。先人たちから学び直し、経営を面白くしていきたいと思います。