伝統美の面白さ

昨日は新潟県十日町で古民家再生に取り組んでいるカールベンクス氏とお会いするご縁がありました。25年前にこの土地に移住してから現在までに50棟ほどの古民家を再生しており、カールベンクス氏が住む村には今ではたくさんの若い方々が同様に移住してきて奇跡の村と呼ばれています。

「日本の木造建築は世界一である」と語られこのような文化が失われていくのは何よりも残念であるといい、職人さんにとっても子どもたちにとっても絶やしてはいけないと仰られておられました。

本来は日本人の子孫である私たちが語るはずであろう言葉を、ドイツ人の方から直に聴くと目が覚める気持ちになります。

例えば、「日本人がドイツにいけばその土地に古い町並みや懐かしい風景を感じにいくのになぜ日本人は自分の国のそういうところに興味がないのか」という言葉であったり、「ドイツには昔から古い建物は壊してはいけないという法律がある、その法律によって子どもの頃から古民家は貴重なものであるという認識をみんな持っている」ということなどまさに何が本当の価値なのかを気づかせてもらう言葉ばかりです。

現代建築の日本の住宅はプレカット方式といって機械によって加工しやすいため外材を用い木材を人間の手を使わずにカットしていきます。大工さんは昔ながらの手仕事はほとんど必要なく、まるでプラモデルを組み立てるようにトタンや合板で効率よく作業していきます。このような仕事をしているうちに日本の大工さんの技術も心も伝統も失われていくことを嘆いておられました。世界一の木造建築を建てる心と技術と伝統を自分たちから捨てていき、古いものを壊して便利な新しいものばかりを建てようとするのは設計士たちの欲がやることであるとし「本来、家は財宝なのだからいつまでも大切にしなければならない」という言葉に徳の人柄と思いやりを感じました。

カールベンクス氏の設計された建物を具体的に見学すると、ドイツ人の感性で自由に古い日本の材料を用いて古民家を再生しておられました。現代人が住みやすいように断熱を工夫し、断熱に必要な窓や暖炉などはドイツから輸入しておられました。新築を建てるよりも古いものを用いた方が本来は費用がかからないといい、創意工夫をして扉を本棚にしたり、そこにもともとあった古材料や道具を別のものに見立てて家の改修やデザインに活用されていました。

家全体が昔からある日本の古い懐かしいものを活かしながらデザイン全体を楽しんでいるようにも観え、まるで「ドイツの伝統が日本に馴染んでいるような感覚」に新鮮さを感じました。一言でいえばそこは「ドイツ人の美意識が創造する日本の風土を取り入れた古民家」でした。

お互いの善いところを引き出し、持ち味を活かし新しい美意識を創造するというのは芸術そのものです。今まで設計やデザインというものを知りませんでしたが、カールベンクス氏の生き方を拝見することによって「伝統美の面白さ」を学び直した気がします。

未来の子どもたちの心に、大切な日本の心が遺せるように自由に伝統美の表現を楽しみ遺っている文化を上手に活かし和合させ復古起新していきたいと思います。

ありがとうございました。

 

  1. コメント

    日本の良さを外国人によって教えられるというのは、妙な感じもしますが、意外と自分たちのことはわからないものです。また、日本人が意識していないことでも、外国人が感心するようなこともたくさんあります。「価値観の違い」で済まさず、その指摘はしっかり受け止め、日本文化というものの「真の価値」を、世界の眼で確認しておきたいものです。

  2. コメント

    海外に行くとワクワクするのは、初めて見るものばかりで心踊るのだと思っていましたが、よく考えて見ると、ロンドンよりもイギリスの田舎町やドイツの旧市街地、カンボジアの農村など、初めて行った地であってもそこに懐かしさを感じていたからなのかもしれません。ブルーノタウトやエドワードモース、そしてカールベンクス氏から日本の善さを教えて頂いています。彼らのように、その土地土地の善さを感じられる感性を磨いていきたいと思います。

  3. コメント

    カールベンクスさんの記事や動画を見てみたとき、カールベンクスさんが再生する古民家には何か、日本らしさを超えて、ドイツらしさを超えて、優しさとか、繋がりとか、暖かさというような人間の本質的なところが垣間見えたような感じがしました。確かに見た目は違いますが、違うからこそ共通する心や理念が見えてくるようにも感じました。目に見えるところが違った方が、その芯のようなものは感じ取りやすいのかもしれません。多様性のなせる業、世界がある理由を感じたように思いました。

  4. コメント

    同じように「日本人の美意識が創造する外国の風土を取り入れた何某」というものを考えた時、日本人としての持ち味は何だろうかということに向き合うことになります。カールベンクス氏もまた古民家の再生に取り組んでいるだけではないように感じられるのは、聴福庵での自分たち自身の体験があるからこそのように思えます。大本にあるものをしっかりと感じていきたいと思います。

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