人道の本質

二宮尊徳の遺訓には、私たち人間がどのようにすることでもっとも天道地理に沿うのかということが記されています。今のような物質が溢れ、飢饉飢餓などが遠ざかった世の中にはあまり二宮尊徳の偉業が弘がりませんが、本来は「心田の荒蕪を耕す」といった本質で観れば今の時代ほど二宮尊徳の教えが必要な時代に入っていると思うのです。

その尊徳翁遺訓に「水車のたとえ」というものがあります。

『「水車の回るは半ばは天道にして半ばは人道なり」。翁曰はく、それ人道は言ふれば、水車の如し、その形半分は水流に順ひ、半分は水流に逆うて輪廻す。丸に水中に入れば回らずして流れるべし、また水を離るれば回ることあるべからず。それ仏家にいはゆる知識のごとく、世を離れたるごとし、また凡俗の教義も聞かず義務も知らず、私欲一遍に着するは、水車を丸に水中に沈めたるが如し。ともに社会の用をなさず。故に人道は中庸を尊ぶ。水車の中庸はよろしきほどに水車に入りて半分は水に順ひ半分は流水にさかのぼりて運転滞ほらざるにあり、人の道もそのごとく、天理に順ひて種を蒔き、天理に逆うて草を取り、欲に従ひて家業に励み欲を制して義務を思ふべきなり。』

これは意訳ですが、(天道と人道は水車のようである。その水車の半分は水に従い、半分は水に逆らう。水の中に入れば水車は回らず、水の外に出ても回らない。これは世の中と交わらない仏教徒のようなものでこれでは水中の水車と同じく役に立てない。だからこそ人道はバランスが大事である。人の道は自然に沿って自ら種を蒔き、そして自然に逆らってその周りの草を刈る、これは慾に従って幸福成功のために精進しつつ、同時に慾に逆らって世の中への理想や利他を盡して社會貢献していくのである。)と。

自然農を実践する中で、自然に沿う事と自然に逆らう事は常に向き合うことになります。天地自然の恩恵を受けて私たちは存在していますが、人間はその中で自然を破壊し自分たちの思い通りの世の中にしているとも言えます。

一方では自然を愛しつつ、一方では自然をコントロールしようとする。これが人間とも言えます。ここでの二宮尊徳の言う、天道と人道とは別に天道か人道かと言っているわけではないと私は思います。

まずは天道を素直に優先し、その上で人道を謙虚に行うことだと私は言っているように思うのです。この優先順位が違うならば、人間は慾に負け、慾を制することがなく、今の世界のように樹木や生き物たちは絶滅の一途を辿ります。

この水車のたとえというのは、結局は「人の道」とはどういうものかということをたとえています。人間は天道に従うことで循環し、そして中庸を実践することで人道に適うというのです。

この世の本当の意味での幸不幸はこの「人の道如何」に由ります。

二宮尊徳が言う、「報徳」の真心を今の時代に置き換えて「仕法」を仕組みに昇華してこれからも子どもたちのいる現場に種を蒔き続け、刷り込みの草を刈り続けたいと思います。

  1. コメント

    一円対話の実践が拡がりはじめ、改めて二宮尊徳翁のお陰であり、一円観という思想で何よりも耕されているのは自分自身であることを感じます。一円対話でハッとさせられる仲間の気づきやお互いを認めることも体験を積むことで、その大事さを実感します。そして、ここにも実践を積む尊さ積小為大の教えがあり、知らず知らずにその教えをいつも頂いていることを感じます。その教えを伝え弘めていけるよう精進していきたいと思います。

  2. コメント

    水車にとって大事なことは、停まらずに回り続けることでしょう。そのためには「天理に従い、天理に逆らう」「欲に従い、欲を制す」このバランスが重要ですが、ちょうどいいバランスかどうかは、欲を超えて水車が停まってからでないとわかりません。自分の都合を出し過ぎ、分を超えたと気づけるよう、そして、気づいた時には、すぐにコントロールできるようでありたい思います。

  3. コメント

    子ども達にはありのままであって欲しい、自分自身もあるがままでありたいと願いますが、ただその願いだけではありのまま・あるがままではいられないように思います。自然にゆだねていれば本心・本音のままで生きていける訳ではなく、人としてこの世界に生きていくからこそ日々に心を手入れするという実践が必要なのだと、改めて生き方というものを見つめ直していきたいと思います。

  4. コメント

    自分の暮らしで実践してみること、仲間と一緒に取り組んでみること、お客様と一緒に取り組んでみること。実践の中でしか、水車が回っているかどうかは分からないのだと今日は学び取らせて頂きました。大切なのは回っているか・・・自分を活かせているかと思うと、自分の欲や価値観は最大の敵だと感じます。傾聴の心、選ばない心。転じる心を大切にしていきたいと思います。

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