便利と不便

人は一人で生きていけば分からないことも、二人以上で生きていけば分かることが増えていきます。誰かと一緒に生きるというのは、それだけ御互いの中に思いやりを学びます。この思いやりを感じることができれば人は豊かさの本質を学びます。

便利な世の中というものは、一人で何でもできる世の中を目指していきますがそれでは相乗効果という自然の豊かさに気づくことはありません。

不便であればあるほどに人は不便の中にある大切なものに気づき直すものです。人間関係の中にある不便とは御互いを思いやり配慮するから不便であって、自分勝手に何でもできるから便利であるという事と対照的なものです。

たとえ自分が不便だからとお金を払って不便を他人に押し付けて目に見えないようにして隠していても必ずどこかで誰かに多大な迷惑をかけています。だからこそ不便を楽しむといった境地を体得することで昔の人たちはその不便の中にある豊かさを感じていたのでしょう。

例えば不便の中にある豊かさといえば、囲炉裏であれば火を熾しゆったりと鉄瓶で御湯を沸かし、一杯のお茶をのむのは大変な時間も手間もかかります。今は瞬間湯沸かし器でスイッチ一つですぐにお湯が沸きますからそれに比べればとても不便です。しかしその不便さを通してその中でゆったり内省したり、火を囲んで周りの人たちと談笑したり、火を見て心を穏かに落ち着いたり、暮らしの道具に囲まれてつながりや手作りのいのちを味わったりと実に豊かな物語が増えていきます。

これは誰かと一緒に生きていくのも同じです。

自分の思い通りにしたいからと一人で生きていこうとすることもできますが、誰かと一緒に生きていけばもちろん感情のストレスがかかってきます。思い通りにいかないときにメンドクサイと感じるのでしょうが、だからといっていつも一人で仕事をしたり一人でやっていたら便利ですがその中にある豊かさはなくなってくるように思います。

一緒にやる中にある感情は確かに辛く苦しいこともあります。時間を守らないとか、情報共有してくれなかったとか、裏切られた気持ちになったとか、自分を大事にしてくれていないとか、感情が沢山湧き起ってくるものでしょう。しかしその一緒にやることを通して人は様々な物語を味わっていくことができます。嬉しさ、悲しさ、喜び、出会いと別れ、そして愛、真心などその人間関係の中に人の仕合わせと豊かさがあることに気づき不便ですがそれが実に豊かな物語だと思えるのです。

先ほどの囲炉裏の話では、ただ湯を沸かせばいい、ただ火をつければいいのではないのです。そのプロセスの中にこそ、真の豊かさがあり、真の情緒があります。また自然界の持つバランスは相乗効果ですから、様々な御縁が折り重なって結ばれ新しい出会いや感動が生まれてより豊かさが増していきます。人間が一緒に生きることが出来れば人ははじめて自分に自信を持てます、それは御互いに存在を分け合えるからです。確かに成功だけを求めたり結果だけ求めて何でもできる人になるのは便利なことです。すぐに利用価値があり、すぐに効果がある方がいいと思い込みますがそれは使い手にとってそうであるだけで本人にとっての豊かさとはまた別物です。

便利な世の中になればなるほど、不便を楽しむという実践が必要は思います。このような物質経済に溢れる時代だからこそ便利か不便かではなく、豊かさとは何かということを自問自答していくことこそこれからの人間の健やかで素直な生長には欠かせないと思います。

だから敢えて私たちは一緒にやるのです。

引き続き、人類のためにも子どもたちのためにも「一緒にやる」ことの豊かさを子ども達に継承していけるように様々な感情と向き合いながらその中にある物語を味わっていきたいと思います。

  1. コメント

    今年の一文字に「豊」を掲げていますが、月にどれくらいこのことを考えているかを思うと時々思い出す程です。そう思うとまだまだもったいなく、人を見るときの視点にも似ています。心穏やかな時は気づく幅も広がりますが、忙しい時こそ不便さはかえって心のゆとりを取り戻せるバロメーターであり、一杯のコーヒーがもたらす至福の時のようです。一緒に進める中で色々な感情を体感する、これも一人では感じられない豊かさなのだと感じます。便利や楽よりも一緒に進めていくことを大事にしていきたいと思います。

  2. コメント

    「便利」は確かに助かる感じがします。しかし、これは「結果主義」の発想です。「結果」を急ぐと、早くて便利な方がいいですが、「過程」を味わい楽しもうとすると、早くて便利なのは面白くありません。「時間がかかる」のではなく「時間をかける」、「手間がかかる」のではなく「手間をかける」、この過程に「豊かさ」が宿るのでしょう。「スピード」等の価値観と戦いつつ、それが「甘え」にすり替わらないように注意したいと思います。

  3. コメント

    1人で感じる豊かさには限界があります。仕事も1人で進めてしまうと、勿体無さを感じます。ハイタッチをする仲間もいません。働くとは、周りとの豊かさを創り出すことであり、それを諦めるとただの仕事になってしまいます。自分自身の働きが頂いている機会の豊かさを豊かなままにしているか。よく注意して行きたいと思います。

  4. コメント

    「一緒にやる」ということも、それに取り組み始めた当初と今では、その捉え方が随分と変わって来たように思います。それでも、まだまだ分かることはなく、その言葉に果てしなく奥深いものがあることを感じます。自他一体に近づくための大事なプロセスとして味わっていきたいと思います。

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