先祖たちの真心

昨日、大工さんたちによって110年の重みで傾いた古民家の柱を立て直す作業が実施されました。本来は土壁を剥がして瓦を降ろし、柱をすべて組みなおすことで解体し立て直すのですが今回はジャッキアップすることで対応しました。

現在は古民家の再生をする大工さんも少なくなり、昔からのやり方を伝承している人たちもいなくなってきました。現代工法というものは、洋式建築が中心に法律が改定され続けましたから昔ながらの建物の修理の技術も廃れていきました。

古民家は住んですぐにわかるのが、通気性です。ありとあらゆる場所や材料が呼吸しており、雨が降れば建具が湿気で重くなり、風が吹けばあらゆる場所から隙間風が吹いてきます。普段は感じない家の呼吸も、お香を焚いてみればすぐにゆらゆらと吸っては吐き、吐いては吸うといった家の呼吸を感じられます。

今回は立て直しにおいてすべての床を剥がして骨組みになりましたが、その下からは110年前の土が出てきます。今ではコンクリートで固めてしまって、下はまったく呼吸できなくしていますが土はもっとも呼吸する存在ですから水気が下から湧き出てきます。

この水気は、呼吸大学の宮本一住さんによれば縦の風といって下から上へと水分が蒸発していくときに呼吸する仕組みになっているといいます。確かに植物たちや木々は、下からの水分や水蒸気を浴びて呼吸を繰り返し成長していきます。

木造建築でできた日本家屋が何百年も維持できるのは、この自然の仕組みを上手に取り入れたからかもしれません。今ではこの土間をコンクリートで固めることで、気密性は高まりましたが傷みやすく長持ちしない家になってしまいました。

大量生産大量消費、効率優先経済効果ばかりをなんでも先にしてしまうと、それまでの先祖たちの知恵や恩恵、いわば宝ともいえるものを捨ててしまうことになります。そうやって数十年も経てばあっという間に技術も伝承も断絶してしまいます。

伝える仕事というものは、今ではあまり価値がないように思われていますがかつては伝承する人こそが国宝だったように思います。なにをもって国宝とするか、それは先祖恩人たちの道を継承して踏み歩く人々だと私は思います。

これから床下に、備長炭を埋炭していきますがこれも私が発酵から学んだ知恵です。土は炭を埋め、まくことで土着菌たちの安心した住処になります。そしてこの菌たちが木を活かし、土を活かし、そこに住まう人々の健康を守ります。

古民家は共生の住処です。

引き続き、古民家再生を通して先祖たちの真心に触れていきたいと思います。

 

  1. コメント

    畳を移動し気づいたらもう、骨組みになっている様子を見て作りはシンプルでありながらこうして今も家が生きていることに嬉しさを感じました。床下に現れた木々を見て古民家の資材として使われるずっと前から生き、今こうして出会えていることが不思議でなりません。一世一代の大プロジェクトに携わっていると思うと、手間は掛かっても手作業だからこそ修復できることなのだと感じます。聞き間違いかもしれませんが家の声が聞こえたようなそんな気がしました。

  2. コメント

    風をイメージすると「横の流れ」になりますが、確かに、自然界は「縦の流れ」を基本に、大きく「循環」し「円環」しているのかもしれません。「風の流れ」と「水の循環」は、すべての生き物に影響を与えていますが、生活面においても、特に住居においてとても重要な要素です。日本家屋が、こうした自然の流れに適った造りであることを、しっかり学び直しておきたいと思います。

  3. コメント

    共生の住処と言う言葉。その強さを実感します。それこそ、一緒に暮らしてきた仲間との絆は普通ではありません。特に、同じ目的の為に共に暮らしを高め、暮らしてきた仲間との絆は、ただの人間としての絆を越えた、同志としての絆を感じます。そして今回、同じように古民家での体験を通して、磨いた木々や使った食器、まな板に愛着や関係性が出来たように、床下の土や基礎との関係も、這いまわっていく中で出来がっていきました。
    これも、ただの愛着ではなく、生き方や暮らし方を踏まえての愛着関係が出来上がっていっていると感じます。ここでの体験を自宅、普段の生活に活かしていきたいと思います。

  4. コメント

    家に俺様が住んでいると思ってしまっては、何も見えなくなるように思えます。まだわずかではありますが、壁や柱を磨き、炭と共に一日を過ごし、もろいものだからこそ丁寧に扱ったり、小まめに手入れをしたり、照明の違いを感じたり…と、この古民家と共に暮らしていること、この古民家にもいのちがあることを感じ始めています。この感覚を持ち帰ることが出来るのか、来て学んで終わりにならないよう、新たな実践を取り入れていきたいと思います。

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