日本の子ども観

日本にはむかしから大切にされてきた「子ども観」がありました。日本の諺にも、千の倉より子は宝、金宝より子宝、子に勝る宝なし、子宝千両、貧乏人に子は宝、子は第一の宝、子は人生最上の宝、年とれば金より子、我が子に替える宝無し、など沢山のものがあります。

子どもは決して大人にとって自分に都合のよい「宝」ではなく、生まれながらに宝の存在であるという子ども観があるということです。この宝は金銀や紙幣などの富のことを指しているのではないことはすぐにわかります。では何を宝というのかということです。

もともと人間は、生まれながらにして徳というものが備わっています。この徳は、道心とも言い、現代ならば道徳心とも言います。生まれながらにして思いやる心や優しい心があるということです。赤ちゃんを見て誰もがほほ笑むのはその赤ちゃんの赤心に触れるからです。

時折、野生の動物たちや昆虫たちも小さな存在である赤ちゃんに対しては種族を超えて守り育てようとします。それは赤ちゃんという存在に、自然に特別な何かを感じているからです。

この宝という言葉を私がもっとも理解するのに印象深かったものは天台宗の宗祖の最澄の遺した下記の言葉です。

『照千一隅、此則国宝』(一隅を照らす、これ則ち国の宝なり)

この一隅とは、自分の今いる場所を指します。意訳ですが、その場その場で一人ひとりが道徳を実践することこそが国の宝になるといになるという意味です。

そしてこう続きます。

「国宝とは何ものぞ、宝とは道心なり」と。

最澄は宝を道心と定義しました。むかしブログで紹介したこの道心とは、私の言葉では「初心」のことです。この初心は、その人がそもそも備わっている真心、もしくは大和魂や純粋な精神などと言ってもいいかもしれません。一人ひとりがはじめから持っているその初心を、それぞれが人生の中で大切に守ることができるのならそれが天下の国宝になるということです。

むかしの親祖や御先祖さまたちは本来、人間というものをどう捉えていたか。そこから受け継いできた本物の子ども観を見つめ直せば、日本の子ども観の真実が観えてくるものです。

引き続き、初心伝承を通してその初心によって一人でも多くの人たちの仕合せが引き出されていくように子ども第一義の実践を追求していきたいと思います。

 

  1. コメント

    子を宝と表す言葉がこんなにあるとは知りませんでした。ただ、子どもの頃自分自身も大切に育てられたことを感じており、子どもながらに将来は子どもに関わる仕事をしたいと思っていました。そう思うと、子ども時代の宝物のような思い出がそう思わせると思うと、どういった環境で育まれるかが大切なことに感じます。宝を磨き続けられるような働きを目指していきたいと思います。

  2. コメント

    松下幸之助さんは、「熱心」ということも人間に与えられた大事な宝である、と仰っていますが、「誠実さ」や「素直さ」、あるいは「思いやり」といったすべての徳目が「宝」として与えられているのでしょう。それらを、最も素直なかたちで備えているのが「子ども」たちなのかもしれません。ただし、「宝」は持っていればいいのではなく、磨きながら発揮することが大事です。「赤心」に戻り、磨き直したいと思います。

  3. コメント

    子は宝という心が、今の世の中では、餓死させたり、虐待をさせたりと、無残なことが次々とニュースで出てきています。そのたびに、何とも言えない心の悲しみや痛みのような怒りのようなものが燃え、こんなことになるのなら、養子として育てられないだろうかと、いつも思います。しかし、同時に、それを考えたとき、「お金があれば」という条件が自分の目の前にやってきます。それを思うと、結局は自分もその人も、大局では共通しているところがあるのではないかと感じます。この貨幣経済という社会の中でお金を稼ぐというのは、自分が稼げば、誰かの稼ぎや仕事がなくなるということでもあり、奪い合う社会の中で起きる悲劇を見ながらもこの矛盾を感じています。少しでも、助け合い、分かち合う社会にしていく為に。子どもたちが喜ぶ社会を残していく為に、古くからの智慧から学んでいきたいと思います。

  4. コメント

    発達チェックをする際に、その子がどうかという視点だけでなく、自分を振り合える眼差しが大切であるのは、そもそもその子は自ら育つものであり、それを信じているからであることを思います。同じように、誰かを咎めるような発言を聴く時、それは前者の視点ばかりになっていないだろか、後者の眼差し、自らの寄り添いや思いやり、そして配慮や環境はどうだったのかと省みます。子ども観、人間観を考える時、宝を宝のままにしていく為には、お互いの修練が必要なことを感じています。

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