未来の結果

日本の伝統家屋や民家ではよく「ヤモリ」を見かけます。これは家守や守宮とも書き、家を守る存在としてむかしから大切にされてきました。アジアの国々でも、縁起の良い生き物として神様のように崇めているところもあるそうです。

基本的には夜行性ですから昼間は軒下や天井の裏などにひそんでいますから見かけませんが、夜になると窓ガラスにはりついたり、網戸にいたり、障子を走り回ったりと賑やかです。

寿命は長くても10年から20年くらい生きます。冬はなるべくじっとして過ごして春から秋にかけて活動しています。湿気の多い時期、家を壊すシロアリや虫たちが出てきますがヤモリがいる御蔭で人間の手が届かない場所までスルスルと隙間を通って駆除してくれます。他にも私たちが苦手な害虫としているゴキブリ、蚊やハエ、蛾なども食べてくれます。

私たち人間は暮らしの中で相性が善い虫たちと長い時間をかけて共生関係を結んできました。トンボやクモなどもですが、人間に害があるものを駆除してくれる存在です。ヤモリはその代表的な生き物であり、ずっと今まで一緒に暮らしを営んできたパートナーの一つということになります。

このヤモリは爬虫類で、肺があり心臓があります。とても素早いのですが、愛らしい目や顔をしているので近くでみるとなかなかのものです。基本的には臆病で人間にかみついてくることもなく、歯もないので痛くもありません。

それにヤモリはむかしから縁起物として富の象徴ともいわれてきました。他にも夢にでると良いことが起きるなどともいわれています。これだけ様々な言い伝えがあるというのは、ヤモリが出てくるときはいつも何か良いことがあったということ。言い換えれば、ヤモリの後には善いことがあるのではないかという準備をしたということでもあります。つまりヤモリと吉兆の縁を起こすのです。

不思議なことですが、先人たちは子孫たちに大切にしてほしいものを縁起にして善い存在として接していきます。何か自然において私たちにとって有益で共生できると信じればそれが目先の現実では理解できないことでも縁起担ぎをしていくのです。

これは何回も繰り返される経験の中で特に善い結果が出たものをいつまでも覚えていて、その結果につながる前兆をよく思い出し、その前兆であるものを縁起のよいものにしていくという考え方です。つまり幸運を引き寄せていくための智慧と工夫がそこにはあるのです。

ヤモリが縁起がいい、そして幸福や富の前兆とみるのはヤモリを大切にしてきた家が繁栄してきたという歴史的な結果を多く見てきたからでしょう。これは健康であることや、生き物や周囲に思いやりがあることや、場が整っていることなどもあると思います。

そう考えてみるとヤモリは、その人間のかつての結果を伝える大切な存在のような気がしてきました。口伝や伝承、縁起などには必ず結果に元ずく事実があります。その事実は経験の集積によって顕現した智慧ですから、子どもたちの未来の結果のためにもその智慧を伝えていきたいと思います。