自然住

昨日はアイヌの古来からある住居「チセ」を見学する機会がありました。このチセは、北海道の厳しい冬を乗り越えるために編み出されたアイヌの伝統の智慧でもあります。かつての人間は自然の仕組みに精通していて、今のように全部人間のエネルギーだけで解決しようとは思っていませんでした。

現代は石油や電気などの燃料を消費して熱を出して暖めますが、かつては自然の仕組みを最大限活用して厳しい寒さを凌ぎ、高温多湿の夏を乗り切ったとも言えます。

この古民家の持つ不思議と魅力を少し整理してみます。

本来、私たちの住まいは生きていくための最低限を保障するものでした。それは言い換えるのなら、いのちのための最大限の環境を創るということです。

このチセは日本の古来の縄文時代の住居と同じように土間の上に木組みで組まれた建物にワラや笹を用いて断熱したシンプルなものです。その中心には囲炉裏があり、一年中火を熾し生活をしていました。

そこでの暮らしはとても合理的であり、囲炉裏の火を熾すことで夏は湿気を飛ばし室内を乾いた空間に換え、冬は床暖房のように蓄熱し室内を温かく維持する空間にします。

この仕組みの凄いのは、自然のサイクルに沿っていることです。夏は冬の寒さを土が貯めて半年間ほど土を冷やします。よく今の季節でも自宅の犬が土を掘って真夏の灼熱の暑さをしのいでいるのを見かけます。ためしにその掘った土に触れてみるとヒンヤリと冷たく天然の冷房が機能しているのが分かります。いくら表面が光で熱せられても土の方は逆転して冷たいのです。

そして今度は冬になると、地下深くは夏の間に蓄熱した熱がそのまま土に保持されています。クマや野生動物が土の奥深くで冬眠するのも、土の中の温度が暖かく過ごしやすいからです。いくら表面が凍って雪が降り積もろうが、地中深くは暖かいままの温度があります。

この自然の仕組みを先祖は家づくりに取り容れているとも言えます。そしてその調整役を担うのが「囲炉裏の火」の役目であったように思います。私たちは保存食をつくるにも燻製やカビを撃退するのも炭火や煙を用いて来ました。日々の食卓は、この囲炉裏の火で賄われてきました。年中この火を絶やすことがなかったからこそ、室内環境は快適に過ごせたとも言えます。

暮らしというものは、食べる寝る着るといった衣食住が中心に行われます。その中心には自然との共生があり、自然の仕組みを活かしたもので私たちは無駄なエネルギーや無理な活動をわざわざ使うことがありませんでした。

それが永い時間をかけて生き延びてきた智慧であり、自然と一体になって生きていけば安心して生きていけるという自然界の生き物たちの智慧を活かしているともいえます。

確かに今の時代は、裕福に物に溢れエネルギーも無尽蔵にあるようにみえます。しかしこれは一時的に燃料を掘り出したり、資源を食いつぶしているから豊かに見えるだけで資源がなくなればかつてなかったほどの悲惨な状態になっていきます。

以前、ある生き物で溢れた豊かな小さな島で、人間が木材は金になるからと競ってみんなが森の木を切って売り払ったらその島は生き物が絶滅し人間もまた最後に絶滅したという話を聴いたことがあります。

これと同じような未来を見据えているのか、かつての古来の先人たちは何を知っていて自然に寄り添ったか、その住まいや佇まいから私たちは大切なメッセージを受け取る必要があるように思います。

もしくは今の文明はたった数千年ですが、もっと以前、何億年も前には似たようなことが何回もあったのかもしれません。今の生き残りの先祖たちというのは、生き延びてきた先祖たちであることを改めて私たちは意識する必要があるように思います。

だからこそ畏敬の念をはらい、尊敬の念をもってその智慧を学び直す必要があるのです。子ども達のためにも、博物館化してしまう死んだ知識になるものではなく生々しく呼吸する智慧のままで歴史を伝承をしていきたいと思います。