家に選ばれる生き方

現在、古民家というものはあまり価値がないものになっています。特に日本では、土地の方が価値があり家の方はほとんどは価値がないと売買されているところがほとんどです。産業革命以降、家もまた物質の一つとなってしまい本来の家の持つ意味や価値も変容していきました。

もともと、建物は単なる物ではありません。そこには場があり、いのちの宿り、私たちが生きているように家もまた一緒に生きています。私たちが家に帰れば安心するのは、生きている家に住んでいるからです。「ただいま」と「おかえり」とあいさつをします。この言葉は、武士の挨拶が語源だといわれます。

「よくご無事でお帰りなさりました」そしてまた、「いってきます」と「帰ってきます」を合わせ、”今から出かけます、そして帰ってきます”と再び帰って来ますという意味が込められた言霊だともいいます。

家は、出発点であり終点でもありいつもそこに自分が居るという只今の場所でもあります。それは単なる持ち物ではなく、自分の心身の置きどころでありいのちの根があるところともいえます。

私がお手入れし共に住む家は、どこも深い歴史を持っています。その先人たちや先祖、そして地域の中で大切に建っている場所を丁寧に調えて暮らしを紡いで伝承しています。

これは単に家を買い取ってリノベしてオシャレに改装して、それを転売しているのではありません。そこに流れている縦の文化、そして暮らしの伝承を継続して前よりも美しく磨いて未来世代へと紡ぐために行っています。

仲間が増えていくことは有難く、単なるモノ好きな人ではなく純粋な伝承者が集まっていくように家もまた人を選び、そして人もまた家に選ばれて磨かれていくのです。

資格というのは、今は誰かが基準を決めて評価されて有資格者になりますが本来は家がその人を選び、選ばれた人がそこで暮らしを磨いていくことで真に資格のあるものに変化していくものです。

私の言うお手入れとは、そういう日々の暮らしの中の伝承を通して徳を磨き、その家やその場所に相応しい人になっていくための修養の一つです。

故郷にはまだまだ先人の遺徳がのこっています。未来世代が少しでも豊かな心が伝わっていくように、伝道していきたいと思います。