自然界に倣う

現在、取り組んでいる浮羽の古民家甦生で鏝絵について色々と検討しています。この鏝絵は、左官職人が鏝を使って絵を壁などに画くことです。漆喰壁に漆喰で画かれていますが、よく豪農や豪商の蔵などで観られます。

一般的には鏝絵は、江戸時代に前半本業の壁塗り作業が終わった後に施主への感謝の意味を込めて左官職人が壁に鏝で絵を描いたのが始まりだといわれます。防火に役に立つと江戸幕府が漆喰塗りを奨励し、少しずつ広がり特に明治から昭和初期にかけて全国で広く制作されるようになったといいます。その後は、漆喰塗りも西洋的な建築や技法、蔵もなくなり左官職人も減りほとんど見かけなくなりました。

九州では、大分県の安心院に多くまだ残っています。これは腕利きの有名な左官職人たちがいてそこで弟子たちと腕を磨いたことと、近くの宇佐の海で漆喰がたくさん安易につくれたからだとも言われます。

そもそもこの漆喰は長い年月をかけて海から地表へ隆起したサンゴ礁を原料に、糊やスサを加え水で練って加工したものです。水酸化カルシウムです。似たものに珪藻土というものがありますが、漆喰は消石灰、珪藻土は珪藻の化石を主成分です。耐火や防臭、防カビなどに漆喰が優れていますが珪藻土も調湿などで効果があり耐久性や質感などで塗る場所を変えて使います。

私が取り組んできた古民家でも必ず土壁があります。むかしの家屋は、木材や柱だけで強度を保っていたのではなく土壁によって家はつよく支えられました。この時季は特に燕が古民家に入ってきて巣作りをしようとします。あの巣も田んぼの土を使って藁を漉きこんだもので積み重ねて成型させていくことで強度も耐久性も修繕などすべてを熟します。むかしの人たちは、あの燕の巣作りの様子から家づくりを学んだのかもしれません。

またこの石灰を含めた貝殻やサンゴ礁は、海の貝の家でもあり魚の家でもあります。これも海の生き物たちが、なぜこの材料が家に向いているのかをよく観察しそれを家づくりに活かしたのではないかと私は直感します。

つまりむかしの先人たちの智慧は、自然を観察して自然からそれを享受されてきたもの。よくよく自然界の家を観察して、それを日本の風土気候に合わせたものに変化させて象ってきたのだと思うのです。

今の時代であっても、別に教科書や知識がなくても家づくりは学べるものです。私の家づくりはすべて自然から学びます。資格がないとか、学校出てないとか何も知らないなど言われることもあるかもしれませんが資格というのは、人格を磨くことで得られる一つの境地であり、学校などは別に学校にいったから何かができるわけでもなく、知らないのは知識からではなく、経験や体験から学び習得していくから分かった気にならないようにしているだけという人もいます。

大切なのは、先人に倣うことだと私は思います。その先人はみんな自然に倣うのです。

引き続き、土壁や漆喰を通して色々なことを再発見再発明していきたいと思います。