糸桜と共に

英彦山の守静坊の枝垂れ桜が見ごろを迎えています。私は誕生日がこの頃ですからいつも桜には思い入れがありましたが、この宿坊の枝垂れ桜が好きになってからさらにこの季節を深く味わえるようになりました。

しだれ桜とは、枝が柳のように垂れ下がって生えている桜の総称のことをいいます。これは野生種の江戸彼岸(エドヒガン)の変種で様々な品種があるといいます。その花の美しさから、帯の巻き方にしだれ桜むす帯というものもあり、まさに糸を垂らしたような花姿をすることから、別名 糸桜「イトザクラ」とも呼ばれ日本人に古くからとても愛されてきました。

糸桜という呼び名の方が、しっくりくるのはその雰囲気がまさに糸の優雅さと帯を連想する美しさをまさに帯びているからです。天然記念物になっているものも多く、お寺にあることも多いと思います。

特にこの守静坊の糸桜は、生育上、見事な場所に植えられています。

先人たちがどのような思いでこの糸桜を見守ってきたのでしょうか、明治以降は山伏は苦難の時代でしたからきっと様々なことをこの糸桜を観て思い合ったかもしれません。

その時代その時代、人間には様々な事件や物語が生まれます。平和が続いた安らかな時代もあれば戦争に巻き込まれてたくさんの人が亡くなったり、気候変動で一緒に苦労したりと色々とあったでしょう。しかし、今こうやってむかしの人たちが観てきたものを一緒に感じることができるとき、私たちは時を超えてその樹木と共に何かを懐かしむことができるように思うのです。

生き証人というか、ずっと観てきましたよという存在とこれからも観ていますよという存在に私たちは観られることで何か大切な初心や原点を思い出すのです。

毎年、この季節に同じように繰り返し花を咲かせる存在はそれ自体に私たちは何か有難い偉大な見守りを実感できるように思います。

一生の中で人と出会うように、桜とも出会います。この糸桜とのご縁が素晴らしいものになるように、恥ずかしくない生き方をこれからも取り組んでいきたいと思います。