暮らしの甦生

英彦山の守静坊で薬草園をつくっていますが、色々と考えることばかりです。本来は薬草は山で採取していくものです。しかし英彦山は国定公園のために許可なく採取できません。正確には、耶馬日田英彦山国定公園といいます。

この国定公園を調べると、自然公園法に基づき環境大臣が指定し、都道府県が管理する自然公園のことです。具体的には、すぐれた自然の風景地を保護するとともに、その利用の増進を図り、もって国民の保健、休養および教化に資することを目的として指定するものとあります。

調べると、国定公園の風致を維持するうえで支障があるものは全部ダメとあります。
自然公園法第20条第3項第11号に「高山植物その他の植物で環境大臣が指定するものを採取し、又は損傷すること。」とあります。高山植物は採取はダメだということです。もしも採取又は損傷する場合には、国立公園にあっては環境大臣の、国定公園にあっては都道府県知事のそれぞれ許可が必要とあります。

ただ環境省では、自然公園法施行規則第11条第24項で「学術研究その他公益上必要であり、かつ、申請に係る場所以外の場所においてはその目的を達成することができないと認められるものであること。」第2号「採取し若しくは損傷しようとする植物が申請に係る特別地域において絶滅のおそれがないものであること。ただし、当該植物の保護増殖を目的とし、かつ、当該特別地域における当該植物の保存に資する場合はこの限りでない。」としています。

そもそも高山植物は、最初からあったものなのか、それとも人工的に人の手によって植えられたものなのか。またお山での人々の暮らしにどのように関係してきたのか。そこには先人たちの智慧や暮らしの文化ががあります。ただその植物を物としてとらえれば、何もしないで放っておくことが保存となっていますがもしも人の手が入っていたのならそれは人の手が入り続けなければ保存とはいいません。

これは古民家でも同じことです。カタチだけの古民家を保存して大量の補助金を投入してその後は、見学料を数百円とってショーケースのようにしても古民家を保存したとはなりません。

古民家は周囲の環境と循環するように建てられ、そしてその循環を維持する仕組みになっています。例えば、藁ぶき屋根の古民家では藁を採取して藁でふき替えていきます。茅葺も同じですが、ちゃんとその地域の素材や原料が暮らしの中で活かされ周囲の環境がより豊かになるように人の手が入っているのです。

本来、高山植物や薬草も同じくちゃんと暮らしの中で活かすことがあってはじめて保存しているともいえます。今の保存の考えでは、高山植物はどこにあるのかもわからなくなりますし枯死したりあるいは絶滅してしまいます。私は宿坊で薬草園をしますが、基本はハーブが中心で木々などは移植したりしないと難しいものです。しかし実際に採取禁止されていますから、採取ができません。

提供してくださる人たちから集めて少しずつ、宿坊の敷地内で活用していくところからやっていこうと思っています。

本来の暮らしを失えば、すべて保存することはできないのです。大きな矛盾ですが、保存は暮らしの断絶を推進しています。本気で保存する気があるのなら、ちゃんと暮らしを甦生してほしいと思います。

まずは自分一人からでも丁寧にお山の暮らしを甦生させていきたいと思います。