ゆがみを正す

心理学の一つに「認知のゆがみ」というものがあります。これはアメリカの精神科医アーロン・ベック氏によって構築された概念です。

同じ物事があったとしても、それを客観的に分析し楽観的に処理していける人と、なんでも悲観的になり主観的になって大げさにしていく人がいます。これは認知していることが歪んでいるのであり、本来の正しい状態、現実あるがままを受け止められず感情に呑まれている状態に陥ってしまっていることをいいます。

特にうつ傾向が強くなると、これらの認知のゆがみは顕著に現れてきます。アーロン・ベック氏はこのような特徴があるといいます。

①二分割思考、両極端な思考=うまくいったか全然ダメかどちらかしか認めない
②過度の一般化=少しでも不幸なことがあると、すべて不幸だと感じる
③破局形成=いつも最悪の事態を考えていて、自分に起きやすいと感じる
④マイナス化思考=良いことがあってもまぐれにすぎない、という否定的思考
⑤否定的予測=ささいなことからいつも否定的な予測が浮かぶ
⑥自己関連づけ=自分はいつも誰かから注目されている(特に悪い行い)
⑦過度の責任性=周囲の悪いことは、全部自分に責任がある
⑧すべき思考=理由もなく、人は絶対に〇〇すべきだと確信している
⑨選択的抽出=あることにだけ強くとらわれる
⑩低い自己評価=自分は何をやってもまともにできない、ほかの人より劣っている
⑪拡大視・縮小視=あることを極端に大きく考えたり、逆にささいなことだと感じたりする

以上のような状況になっていると自己分析できれば、自分に認知のゆがみが発生していることがわかります。

簡単に言えばこれは「思い込み」のことですが、話を聴きたくないとき、人の助言も耳に入らないときはこの思い込みが強くなっているということです。思い込みが強くなる原因は、様々にありますが本来の自分自身を見失っている状態になっているということです。

本来の自分自身とは何かといえば、自分が本来どうしたかったのかという動機のままで過ごせていたり、すべての起きていることは必然であって自分に必要なことしか起きていないという自覚があるということです。

自己否定から入り現実を受け入れられないとき、自分にとって都合が悪いことを認識したくないとき、固定概念や執着、また間違った常識などが自らの脳の認知をゆがめてしまうということです。子どもの自己肯定が大切だというのは、自分のことを自分で信じられなくならないようにするためでもあります。

この認知のゆがみを修正するには、様々な方法論があるといいます。その一つは、感情で裁かないということです。感情で裁かずに客観的な事実を分析するということです。感情が共通言語になってしまうと、感情のぶつけ合いや裁き合いでコミュニケーションを取ろうとします。わかってもらいたい、なぜわかってもらえないんだという感情のぶつけ合いが起きれば起きるほど、より固定概念や思い込みが邪魔をしはじめ素直に相手の話を聴ける状態ではなくなります。

人の話を素直に聴くには、自分自身が相手の言うことも一理あるとし、客観的に事実や全体を理解していくことで現実がどうなっているのかということから自分の認知のゆがみに早めに気づき修正していくことができるからです。聴く練習というものは、自分自身のことを客観的に見つめるための大切な訓練になります。

客観的にというのは、起きた事象そのものに目を向けて冷静に対応していくということです。

人間、生きていれば感情が揺さぶられるようなことがあるのは当然です。それが人生の醍醐味でもあるからです。しかし勝手な妄想ばかりを走らせていて、本来の自分を見失っているではそれは自分の人生を味わっているわけではありません。内省を素直にできるかどうかは、日々の心の鍛錬でもあります。

引き続き、聴福人の道をきわめつつ、この時代の自立に向けて新たな対話の仕組みを創造していきたいと思います。