永久の間(トコノマ)

明日、いよいよ待ちに待った床の間の壁の砂鉄塗が行われます。1年半越しに、準備をし伝統の左官親方とお弟子さん、また技術を学びたいと各地から左官職人さんが来庵され文化伝承の場として使われます。

この床の間への私の思い入れは大変強く、この床の間の甦生は暮らしの実践の中でも特に重要な意味を持っています。最近ではマンション住まいになり、床の間がなくなってきた家が増えていますが私たちの先祖は常にこの床の間に神様を祀り大切に暮らしを積み重ねてきました。

改めて床の間とは何かと説明すると、一般的には和室の一隅が一段高くなっているところで掛軸や置物、生花などが飾られています。しかし本来の床の間は、16世紀頃に登場した書院造りに取り入れられた「主君の座」だったといいます。そこは神聖な空間で、またハレの場であり、その主人そのものが顕現する場です。

この「トコ」という響きは、「トコシエ(永久)」、「トコヨ(常世)」と同じ音を持ち、古来から「永遠」という意味で語られます。一家の求心力や、一族が絶えることなく永久に続く象徴そのものが「床の間」であり、この床の間こそ家全体の中心であると私は思っています。

またかつての暮らしがいまでも色濃く残る沖縄では、「床の間は屋敷を守る男の神様がいる神聖な場所なので、床のある和室を一番座と呼び住宅の中で最も高貴な場所である。」と言い伝えられています。実際に、明治頃までは、床の間には神様が宿ると信じられ、神様が依り代になるものを設置し、そこに神様が入ってきてくださる空間であると信じられていました。

実際に、空間という字は、「空」と「間」からできている言葉です。これは入れ物のことであり、器を示します。神様がどれを依り代に降りてこられるか、次々に家の中に入ってきてくださる八百万の神々がそこに鎮座し、その神様をお祀りしおもてなしする至高神聖な場がこの「床の間」であると私は直観するのです。

もっとも清浄で神聖なその永久の空間を、どのようにするかは聴福庵がはじまったときからの主人としての大きな命題でした。それが地球の星魂の欠片でもある砂鉄を用いることができるご縁が本当に有難く、感謝の念が湧いてきます。

この家の暮らしの中心の床の間の甦生は、すでにはじまった聴福庵の息吹と誕生の大きな節目です。これから子どもたちのために風土や初心を伝承していくために主人のいのちが入る瞬間です。

炭と鉄に見守られ、火と水に支えられ、心玉が磨かれて光り輝いていく日本刀のように和魂円満の永久の間を味わいたいと思います。

 

  1. コメント

    小さい頃から「床の間」は特別な場所であり、隣に仏壇もあって、特別な空間でした。いまも、そこには、季節や行事に応じた掛け軸が掛けられており、七福神の像などがあります。毎朝、手を合わすところではありますが、暮らしの中心場所として、もう一度、その空間の意味を確認しておきたいと思います。

  2. コメント

    永久の間という響きにしっくり納得するものがあります。伝承という祈りが折り重なり、たくさんの職人さんの手によって技術も伝承され、聴福庵という場が担っている役割を改めて感じました。職人さんが手直しをし、技術を伝承していくように、自分にできる形で一緒に直して繋いでいきたいと思います。

  3. コメント

    床の間ということの意味深さをブログから、そして聴福庵の床の間の再生からまさに教えて頂いているわけですが、自分の暮らす場に、自分たちよりも大切で重要な存在と場を用意し続け、大切にし続けていくという精神性を日本人が持っているということはとても尊いことだと感じます。私の血の中にもあるのだと思うと、これからの体験を通してまた学び、暮らしを変えていきたいと思います。

  4. コメント

    砂鉄が塗られていくその間で壁がきらきらと煌めいている様子、そして塗り終わった後の照明に照らされる空間はまるで小宇宙を思わせるようでした。実際には見た目もそうですが、左官という職の魂の伝承、そんな一期一会の機会と職人の方々の次代への想いが込められていると思うと、永久の間という名に相応しい有難い場が生れたことを感じます。一つひとつの物語から大事なものを学んでいきたいと思います。

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