八十八

春が訪れ、いよいよこれからお米の苗作りの季節に入ります。毎年この時期がとても待ち遠しく、今年も一緒にお米と季節の廻りが学び合えること、見守りを味わえることに仕合せを感じます。

お米というものは八十八の手間暇がかかると書いて「米」と書きます。この手間暇は意識していなくても自然に手間暇をかけています。こういう時間が何よりの味わいであり、自然農はさらにその手間暇を手作業で味わい盡すことができる豊かな農です。

以前、熊本県人吉にある国宝青井阿蘇神社に参拝したことがあります。そこの大神宮拝殿の入口付近に下記のように書かれてあったのを覚えています。

「わたし達の主食であるお米は、天照大御神からいただいたものといわれています。その「米」という文字は、「八十八」、つまり88の手間をかけ大切に育てるという意味です。太陽・星・月の光を受け、大自然の恵みとしては雨水をいただき、風で害虫を防ぐ、稲妻の光で稲の実が膨らみ、わたし達の命の根(イのちのネ)、命の根源となります。お米は撒けば1粒が万倍にもなります。これは自分1人だけでなく、他人の分までも賄えるという神道における調和と共存共栄の思想です。平らかに【平】、禾(イネ)をを口にする【和】。神様からの賜りものを平均して皆がいただける状態を「平和」というのです。」

とても素晴らしい文章で、古来よりお米が神道の行事、また儀式や祭礼として私たちの生活に密接につながっているのを感じます。昨年は島根で注連縄づくりも実践するご縁をいただきましたが、お米の持つ神聖神秘的なもの、その稲神様が寄り添って暮らしてくださっていると実感することは私たち民族が何を初心に生きていけばいいかを忘れさせないための工夫にもなっています。

八十八の神様宿るお米だからこそ、八十八のお世話をつとめさせていただけるという仕合せ。御米作りの有難さというのは、いのちのねが育つ歓びでもあります。

すでに自然農園の山の湧き水のたまりに10日前に設置してきた昨年のお米の種籾から新芽が出てきていました。これから苗床を用意していよいよ6年目の実践がはじまります。さらに今年は、一昨年前に川口さんにいただいた古代米にも挑戦し、また苗場も使い分けて取り組みます。

子ども達のためにとはじめたものですが、田畑から数多くの見守りをいただき確実に八十八がしみ込み浸透してきています。また青井阿蘇神社にはこう書かれていました。

「お米を炊き食事をつくる場所を台所と言います。これは母親が幼い子どもの食べ物の有難さや、大切さ、事の善悪を教えるなど、人間の生き方の基礎となるべき土台を形成する場所だったからだとも言われます。全国の神社で五穀豊穣を「祈願」するのが2月17日の祈年祭で、「感謝」するときが11月23日の新嘗祭です」

愉しみはいつも道の中にあります、道縁無窮です。

今年も御米に携われることに深く感謝して、丹精を籠めて丁寧に学び直してしていきたいと思います。

 

 

 

 

  1. コメント

    年に数回田んぼのお手伝いをしただけでも、その大変さを感じますが、手間暇かけ惜しみなく愛情を注ぐ、それが本来の生き方なのかなと思います。手間暇をかけられる、それは本当は幸せなことなのかもしれません。そこに近づいていけるような生き方を自分のできるところから、やっていきたいと思います。

  2. コメント

    大阪に、「ごはんさえ正せば、人生はうまくいく」ということを伝えるためにお店を出し、お客様から「いのちのごはん」と呼ばれている奇跡の料理人がいると聞きました。内容を伺うと、そこには日本の各家庭にあった本来の神聖な「台所の風景」が見えてきます。お米を通して、「日本人の食の原点」をもう一度見直してみたいと思います。

  3. コメント

    昨年お伺いした他郷阿部家の台所には何か不思議な力が働いているように感じ、そこで用意して下さったおむすび、それを丁寧に握る姿からは食を通して大切なことを学ばせていただいたように思います。八十八の手手間隙がかかっているからこそ、それを扱うにも同じだけの心を使う、今年も稲の実践を深めていきたいと思います。

  4. コメント

    コメを炊き、味噌を溶き、味わう食卓は格別のものですが、子ども達を見ていると味わいは味覚だけではないことを実感します。昨年までは、おじいちゃんと一緒に石拾いを手伝った経験からか、お米ばっかりを食べていましたが、年々味噌づくりのお手伝い量が増えてくると、お味噌汁のおかわりばかりが増えてきます。自分達がかけた手間暇の分だけ思い入れがあるのでしょうか。これから少しずつ、今度は一緒に料理をすることも増えてくるのだと思いますが、そういった「一緒に手間暇をかける」という経験から、私自身学んでいきたいと思います。

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