馴染む

先日、左官の親方から「土が馴染む」という話をお聴きしました。今の時代は納期が短く、すぐに結果を求めてものづくりをするから時間をかけて馴染むということをしなくなったと仰っていました。

そもそも馴染むというものは、時間をかけることで行われるものです。新しかったものが古くなるというのは、単に経年劣化ではなく経年変化していくということです。それは人間関係でも同じく、幼馴染や昔馴染みというように御互いが調和して解け合い親しくなるということです。

昔の道具たちや古材の魅力はこの「馴染む」ということによります。先ほどの土であれば使っているうちに次第にひび割れたり壊れたりします。しかしそれを修理修繕しながら大切に親しんでいけばそのうちに馴染んでくるのです。

この馴染むというのは、古いということであり、この古いということは安心するということです。親しみが深くなればなるほどに心の安心感は深くなっていきます。これは住居や道具たちとも同じで、馴染むほどに親しくなればそれはもうパートナーです。そのパートナーたちと一緒に暮らしていけるということが、どれだけ心に安心を与えるかといえば家族と同じほどに心を許し開いていきます。

自分が居心地が善く安心するのは、古いものに囲まれているからです。新しいものばかりのワクワク感もいいのですが、古いものが持つ安心感は格別なものです。今、復古創新に取り組んでからまだ日は浅いのですが古いものたちが馴染み合う姿に歴史の重みと有難みを深く味わっています。

私たちの先祖たちが暮らしてきた生き方に、自ら馴染み近づいてさらにもう一歩踏み込んで伝統を革新してみたいと思います。

  1. コメント

    友人たちとの久しぶりの再会と10年近く付き合っていることに改めて驚かされます。これから先もずっと大事にしていきたい関係であることを思うと、物を使い捨てていくような生き方は考えられないことに気づきます。新しい出会いは刺激的ではありますが、思い出を共有し一緒に思い出せる楽しみはまた格別です。「親しき中にも礼儀あり」とあるように、人においても物においても尊敬の念を大事にしていきたいと思います。

  2. コメント

    「馴染む」とは、「違和感」のない状態になることでしょう。それは、「溶け込み、一体化する」ということでもあります。その「違和感の無さ」が安心感に繋がります。目に馴染み、手に馴染み、体に馴染み、場に馴染み、空気に馴染んで、一体化していくことは「新しい関係」ができることでもあるでしょう。また、自分が馴染んでいくための努力も必要です。違和感がなくなるまで付き合う覚悟を持って臨みたいと思います。

  3. コメント

    一番付き合いの長いものと言えば自分の身体だと思いますが、その関係でさえ都合のいいものでパートナーと呼べる程ではないように感じます。そう言った意味では人生の晩年に健康へと興味が移るのも、長年付き合った身体との対話が増え、感謝の気持ちでそれをお返しする大事なプロセスなのかもしれません。何かをわけず、何事にも手入れをして馴染んでいく感覚を大切にしていきたいと思います。

  4. コメント

    道具も、自分との関係性が出来るくらいに使い込んだり、物語が生まれてくるほどの状況を作っているかと振り返ると、一生モノの買い物をするよりも、安くて簡単なものを選んでしまったりと、生き方自体が「馴染む」生き方をしていないところが多々あると感じます。ないものではなく、今ある物、既にある物に対する価値を見出せるまなざしを身につけるには、また一つ、生き方を振り返っていく必要性を感じます。

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