法螺貝の門出

法螺貝の歌口を取り付けて最終仕上げをしています。この歌口は、吹奏のために唇を当てる、もしくは口に咥える部分、つまり吹き口のことです。この歌口次第で、音が柔らかくもなれば甲高くもなります。

また吹き口の穴の大きさや角度、そして穴の長さでまったく音が変わります。調律の難しさは、この微細な長短や太短、深浅などを貝の全体最適に合わせて設置していくことです。これも感覚でしかありません。

もともと息の吹き入れも個性があります。法螺貝だけをつくるのではなく、まず依頼者の方の人格、体格、性格などもすべて事前に傾聴して把握します。私は見ず知らずの人のものは料理も含め制作などもしません。基本は、ご縁のある方に一期一会で接するという生き方をしてきました。

大量生産大量消費の時代に、誰でもいいとなれば工場で廉価版でコスパとタイパのよいことを目指して取り組んでいくものです。

私の取り組みは、徳積であり損をし、時間をかけ、非効率などを優先して取り組んでいます。面倒くさいことを喜んで取り組み、丁寧に丹誠を籠めてその時々の一期一会に生きるのです。

かつての禅僧たちや暮らしを紡いできた伝統職人たちのように、自然の中にいて自然と共に生きて歩みます。

法螺貝の仕上げは、必ず依頼者と共に貝磨きを行います。耐水ペーパーで、海が波うつように丁寧に時間をかけて磨いて光らせていきます。コーティングではなく、磨きにこだわります。

そうやって磨いていくうちに法螺貝との関係性を築き、これからのパートナーとの一生を歩んでいく覚悟を定めます。ある意味。結婚のようなものかもしれません。

この法螺貝がどのようにその方を導くのか、そしてどのような音が自然を映し出すのか、さらにはその波動が仕合せを創造していくのか。いのるような気持ちで予祝します。

新しい法螺貝の門出、おめでとうございます。

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