日本の伝統

永い時間をかけて手作業で産み出されたものに伝統工芸があります。伝統工芸品の中には、その作者が誰なのかが分からなくてもそこに籠められた思いや心が作品に投影されているのが分かります。手に取ってみると、どのように使われてきてどのように使われたいのかが分かるような気がします。これもまた作品に魂が宿っている証かもしれません。

日本民藝館の柳宗悦にこんな言葉が遺っています。

「実に多くの職人たちは、その名をとどめずこの世を去っていきます。しかし彼らが親切にこしらえた品物の中に、彼らがこの世に活きていた意味が宿ります。」

これは誰の人生でも同じことで、たとえ有名ではなくても名前がこの世に残らなくてもその人の生き様は確実にこの世に活かされていきます。そしてその生き様が後の世の人の発見や伝承によって意味が宿るのです。

成功ばかりを望んでいるのではなく、自分の人生を懸命に打ち込むことで作品を遺すという生き方から私たちは伝統の価値を知ります。

また日本という個性と特色においてもこういう言葉で表現しています。

「近代風な大都市から遠く離れた地方に、日本独特なものが多く残っているのを見出します。ある人はそういうものは時代に後れたもので、単に昔の名残に過ぎなく、未来の日本を切り開いてゆくには役に立たないと考えるかも知れません。しかしそれらのものは皆それぞれに伝統を有つものでありますから、もしそれらのものを失ったら、日本は日本の特色を持たなくなるでありましょう。」

新しいものしか価値がないと思うような世の中の風潮もありますし、流行ばかりが人気で儲かるからと追いかける人もいます。しかし世の中の多様性が消失し、画一化されて個性のないものばかりが溢れてしまえば特色はなくなっていきます。

一見、オルタナティブと呼ばれる少数の存在は実はそれこそがその国の特色になるものでありその他大勢が特色とは呼ばないのです。多様な特色を併せ持つからこそ、その国のカタチもはじめて観えてくるものであり、そういう個性を大切にする人々が持ち場持ち場で踏ん張っているからこそその他大勢の個性も活かされ過去から未来へ大切な願いや思いが伝承されていくのです。

伝統というものは、太古から受け継がれてきた私たちの精神文化です。その精神文化をカタチにした人たちが職人であり、その職人たちの作品によって私たちは個性を自覚することができ尊重するように私は思います。

最後にまた柳宗悦の言葉です。

「無名の職人だからといって軽んじてはなりません。彼らは品物で勝負しているのであります。」

本当に善い仕事とは、有形無形の品物となって後世に語ります。私たちが取り組む子どものための仕事もまた、現場の中に顕れます。どれだけ子どものためになったかは、子どもの姿の中に顕れます。私たちの作品は、子ども自身だからこそ未来の子ども達がそれを証明すると思います。

かつての日本の職人たちに恥じないように、日本人としてやり遂げていきたいと思います。

 

  1. コメント

    名は残らずとも自分の生き方も日本の伝統の一つに成りえると思うと、中途半端なことはできないと感じます。旅先などで民芸品を見ると、手作りの温かさや細かな仕事に惹かれます。ただそれ以上に目には見えない想いが語りかけているからなのかもしれません。子どもに目を向けることは、この国を思うことなのだと感じます。自分にできることを精一杯尽くしていきたいと思います。

  2. コメント

    「神業」という言葉がありますが、その道に命をかけて取り組み、この世に生み出された作品は、どれも素晴らしい芸術品です。私たちは、その作品を通して、神技の世界と人間の可能性を見せてもらっているのではないでしょうか。また、それは、人間はどこまで自己を磨くことができるかという挑戦の歴史でもあります。代々、その技と精神をつなぎ続けてくれている職人のさんたちの努力精進に心より感謝したいと思います。

  3. コメント

    作品のねらいや籠められた思いを聴かせていただくと、その視点の違いや観ているものの深さに圧倒されますが、頭でその衝撃を理解してもすぐにそれは意識からすり抜けていくことを感じます。日頃から自分がどの視点でものを観ているのか、何を観ているかで物事が違って見えるのは不思議なことですが、誰もがそれぞれに職人であることを忘れずに、少しでも相手の観ているものをそのままに観られる自分自身の深さを持ちたいと思います。

  4. コメント

    子ども達が日々作り出すもの達も一つ一つに味があり魂が込められていると感じます。この季節、この年齢でしか作れないものがそこにはあると感じます。子ども達が魅せてくれる純粋な動機と姿を自分自身大切にして行きたいと思います。

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