暮らしの伝承

英彦山の守静坊の周囲は梅の花が満開です。この立派な梅園を味わい、梅の実をつくのを楽しみに待っています。特に梅干しにすると、その美味しさは格別で今では山での暮らしの喜びの一つになっています。

またこの時期は、ミツマタの花が開花しはじめます。桜や梅やミツマタは先に花から開花します。周囲の環境はまだまだ閑散とした冬景色ですが、そこに花が咲くと一際春の雰囲気を醸し出し清々しさを増していきます。

このミツマタという花はあまり知られていませんが、これは和紙の材料になるものです。もともと原産は中国大陸南部のヒマラヤ付近のもので、日本へは戦国時代のころに伝来したといわれていますが定かではありません。俳句の世界では春の季語として詠まれてもいます。

ミツマタは成長していくと枝の先がみっつに分かれていくことでミツマタと名づけられたといわれます。漢字では三椏、または三又などと表記されています。英彦山では、ご祈祷のお札をたくさんの檀家さんたちに配布していたといわれます。

和紙の材料のミツマタを大量に植え育て、和紙をすいてはそれをお札にしていったのでしょう。今でもミツマタの群生地がいくつかあります。守静坊にも、壁面の土手にたくさんのミツマタを植えました。日陰であるのと、土がまだ慣れていませんから成長するのにかなりの時間がかかるかもしれません。

宿坊は甦生していますが、現在は庭や周辺のお手入れをずっと行っています。山のお手入れは不慣れでなかなか思うようには進みませんが、この数年後にむかしの宿坊の美しく懐かしい風景をみんなで味わえるように精進しています。

歴史を伝承するというのは、暮らしを伝承することです。

来月には、念願のミツマタの和紙を秋月の井上和紙さんに甦生していただきこれをお札にして枝垂れ桜と共にご祈祷します。また歴史が甦生するのが今からとても楽しみです。

引き続き、生きた歴史、今でも続いている暮らしを調え、英彦山という存在の素晴らしさを後世に結んでいこうと思います。