英彦山の守静坊の敷地内には、お茶の古木がたくさんまだ残っています。冬の間は鹿にほとんど食べられますが春になるととても美しい新緑の茶葉が出てきます。もともと山伏たちにとってこのお茶は、暮らしを支える大切な存在でした。現代でも、お茶は私たちの暮らしを支えていますが少しお茶のことを深めてみようと思います。
北部九州にお茶が広がったのは栄西の影響が大きいといいます。この栄西は平安末期から鎌倉時代にかけて活躍した僧で、中国に渡って禅を学び、それを日本に伝えた人物です。
日本では禅だけでなく、茶を健康に役立つものとして紹介し『喫茶養生記』を著してその効能を説きました。仏教が日本で荒廃していたのをみて、本物の修行を甦生したいと心と体を整えるための実践的な手段と禅の修行を支える重要な道具でもあったこのお茶を通して心を調えることを弘めていきました。
喫茶養生記には「茶は養生の仙薬なり、延齢の妙術なり」と記されます。具体的には、
「凡そ人は心を本とす心弱ければ万病生ず」
といいます。これは心(心臓)が病気をつくる、心が強いと病を防ぎやすいと。しかしこうもいいます。
「世人多く苦味を嫌う然れども心は苦味を好む」。
世の中の人は甘いものなどは好きで苦いものは嫌う、しかし心は苦いものが効能がある。そしてこういいます。
「苦を以て心を養い、茶を以て身を調う」
お茶が心を養生し、そのことで心身が調うのであると。つまり人間の体は、心(しん)を中心であり、この心とは単なる精神ではなく、体の働きの中心でもあり、ここが乱れるとさまざまな病気が生じていく。お茶の苦味こそが心身の調和をする。そしてお茶葉他にも、眠気を防ぎ、意識をはっきりとさせ、疲れを取り除き、体内の滞りを流す働きもあり健康を保ち、寿命を延ばすための優れた方法であるとします。
日常的に暮らしにお茶を導入することで、心身の乱れを予防し大きな病気を防ぎ健康になる。自然に無理をせずに健康になることが日々の修行になるとします。
今でも古い寺院では、苦いお茶をいただくことがあります。静けさと苦味は、心を静かに調えます。
英彦山の標高の高い場所で、たくさんの水氣を浴びて穏やかに育つお茶の木を守り、新たなお茶文化の甦生に挑戦してみようと思います。
