会社には取締役という存在がいます。この肩書は江戸時代からあるものでそれが明治の頃にそのまま今の会社法の仕組みに取り入れられた言葉だといいます。管理監督という意味もあるのですが、どのような経営をするのかでその言葉の定義も変わってくるものです。
例えば、義を持って利をという社風ではなくただ儲けだけをしている会社の取締役はお金だけを管理監督するのがその役割になります。反対に近江商人をはじめ日本的経営のように先義後利のような生き方を大切にする会社であれば取締役は理念を守り全体調和を調整する役割にもなります。
同じ肩書を持っていても、その本質はそれぞれに変わっているものです。
江戸時代などは「暖簾」という言葉を大切にしました。暖簾=信用だったからです。商売をするのに、何よりも重視したのは信用でした。
「暖簾は一代で作れないが、一代で失う」という言葉があります。
この暖簾とは、単なる店先の布ではなく、そのお店が長い年月をかけて築いてきた評判、信用、伝統、取引先との信頼、そして先祖から受け継いだ価値そのものをいいました。
老舗は、お客様をはじめ社員、関係者からの信用を守りました。その時代は社長は主人、そして取締役は番頭などとも呼ばれていますがみんなで暖簾に恥ずかしくないようにと自己を律して商人道を邁進していました。
暖簾は今のように大企業だからとか資本が大きいとか、テレビやマスコミに取り上げられているからというようなものではありません。暖簾という信用は、長い時間をかけての誠実に正直に、嘘をつかず信頼される実績の集積です。何代も何代もかけてはじめて暖簾は信用されます。一代ではつくれないのが暖簾でした。
しかし反対に、信用を失うのは一瞬です。もしも嘘をつき商品をごまかす、約束を破る、私利私欲のために経営をしたらそれまでの信用や信頼を壊し先祖先人から受け継いだものを次の世代へ渡せなくするほどのことだったといいます。
商家にとっての番頭、今でいう取締役は単に利益を増やす人ではなく、主人から預かった財産、従業員、取引先、そして何より「店の信用」を守る役目を担っていたといいます。
だからこそ誰を取締役に選ぶかというのは、暖簾や信用の一大事だったのでしょう。そして従業員もまた同様にみんなで暖簾を守りました。
よく考えてみると、此の世の一大事の一つは次の世代に受けた恩や徳を渡していくことです。今の私たちは先人たちの恩徳で暮らしています。だからこそ同じようにそれを手渡していくことが本来の道です。
商人道であろうが、経営道であろうが、大事なのは信用を受け継いでいくことであろうと思います。
よい機会に恵まれ、有難く信用を手渡していけます。引き続き、暖簾と信用を守っていくよう精進していきたいと思います。
